学びの個性尊重プロジェクトでは、
「選択する」「模索する」アプローチのひとつとして、
教育をデザインする
学びをつくる
ということについて考えてみたいと思っています。
今回は、公立の小学校教員をお辞めになり、
オルタナティブスクールの「HILLOCK:ヒロック初等部」
を開校される蓑手章吾さんへのインタビューを、みなさんと共有したいと思います。
なぜ学校を作ろうと思ったのか。
なぜオルタナティブスクールなのか
の「なぜ」の部分を考えてみたいと思います。
そこに「教育を変えるためのヒント」があるのでは、と考えます。
蓑手章吾さんは、公立の小学校教員時代、ICTプロジェクト主任を務められ、コロナ禍の一斉休校時にも、オンラインで子どもの学ぶ心をつなぐ活動をされました。
また、授業では「自由進度学習」を進め、子ども一人ひとりの学び方、学ぶペースを尊重し、生かす学びを実践されてきました。
これらの実践は、
という本にお書きになっていらっしゃいます。
上田(以下ーー)「公立の学校でもこんなことができるんだ!」というのが、素直な感想で、これからこのような教育が公立の学校にも浸透していくのかなと思っていました。
ですので、教員をやめられてオルタナティブスクールを作るとお聞きした時は、正直少し驚きました。
なぜ、一条校ではなく、オルタナティブスクールという選択なのでしょう?
※一条校とは、学校教育法第1条に定められているいわゆる正規の学校のことです。
蓑手さん(以下略)「子どもの学びを中心にする学校」をやるには、一条校では制約が多く、やりたいことがやりにくい、振り切ってやりきれない、というのがその理由です。
子ども一人ひとりをしっかり見たいとなると、1学年6人程度の規模感が最適だと考えています。一条校の通常の規模では難しいです。
また、一条校には、学習指導要領の枠があり、授業時間や教科書など、やると規定されていることが多くあります。つまり、こなさなければいけないことが多くあるので、それ以外のことをする時間の余裕を、教師も子どもも持てないのです。
オルタナティブスクールですと、一条校の枠を気にせずに、「子どもの学びのニーズはなにか」「子どもが笑顔になれるには」ということを主眼にして、教育内容や教育方法を決めることができます。
子どもを中心として学びを作る、教育をデザインする、という一番やりたいことが、簡単にできるわけです。
子どもの様子に合わせて、試行錯誤したり、再デザインしたりすることも、柔軟に行えます。
ーー 一条校には制約や窮屈さがあるということですね。
開校に先立ち、クラウドファンディングを立ち上げられ、しかも、あっという間に目標額の500万を達成されました。(最終達成額は約670万)また、メディアにも取り上げられたり、多くの著名な方からも注目を集めたりなどされています。
「マイクロスクールを立ち上げる」という規模感からすると、手広く大きなPR活動にも見えますが、その意図はどこにあるのでしょうか?
今回の「学校を作る」という活動は、オルタナティブスクールをひとつ作るだけが目的ではなく、「学びというものをもう一回考え直す」ということを、”日本国民全体”と一緒に考えたいという望みも含んでいます。
クラウドファンディングというアピールの仕方や、メディアでの取材をとおして、問題を喚起する。話題を投げ込んで波紋を広げるというのをやりたいし、やらなければいけないと思っています。
「子どもたちがいる学びの場」を基点に、そこで起こる学びを、我々だけではなく、公立私立の先生、研究者、そして教育外の方もみんな巻き込んで、「何が起こっているのか」ということと、「学びってなんなのか」ということを、みなで見て感じて、大人がアップデートしていかなくてはいけないと考えています。
ですから、クラウドファンディングは、学びや教育を一緒に作っていく「学びの研究所」の仲間集めという意味合いもありました。
学びの研究所では、ヒロックでの実践をオープンにして、「なんのための学校か」「なんのための学びなのか?」「これは本当に必要か」などの考察をとおして、「本当の学び」を広くみんなで作っていけたらと思っています。
こういった活動を通して、大人たちがアップデートし、ヒロックのような学校が、全国にできていくといいなとも思います。
オルタナティブスクールが増えないと、教育は変わっていかないと思うからです。
ーー オルタナティブであることのハードルについてはどうお考えですか?教育機会確保法はできましたが、いわゆる「学校に行けない」が前提となっていると思います。
国としては公教育を維持するために一線を引いておきたいというのはあるんだと思います。
ですが、不登校にしても特別支援にしても、サポートは薄すぎると感じていますし、一律同じ方法に子ども=学習者を当てはめていくという発想になっていると思います。
子どもは一人ひとり違うのが当たり前で、それにあった学びを選ぶことができるのが本来の姿なのに、選ぶ学び場によって公的な支援が異なるのは腑に落ちないところはあります。
公教育自体が多様になっていくことが望ましいと思いますが、そこでの大きな進展には、今のところ期待は持てないなというのも実感です。
これを動かすには、「選択肢があることを知る」ことが一つの鍵だと思っています。
親が「こんな学校があるんだ」「こういう学び方でもいいよね」と、今ある一条校がすべてではない、ということに気づいてもらうことがまず必要です。
その声が増えていくことが政治を動かすと思うので、まずは草の根でも行動していくことが大事だと思っています。
「一条校に行ってないとダメなんじゃないか」と思っている方はまだ多く、そういう方々に「そんなことはありません」と、いくら口で言ってもなかなか理解はされにくいのですが、学びを楽しむ子どもの姿が、一番大人を動かすと思っています。
ーー 学校づくりを通して、教育や学びの固定観念を変え、「ん?!」と思ってもらうきっかけを作りたいということですね。
その2では、普通教育、探究学習といったアプローチから、「変わるためのヒント」を探ります。